職場・集団生活の最大ストレスは人間関係。人間関係は技術です。
我が国の一年のスタートは、正月と年度初めの四月の二回有ります。正月は家族・親戚や友人などの語らいの始まりであり、四月は幼稚園・学校や会社などの社会性を要求される集団生活の始まりです。
五月、六月は、集団生活に慣れ始めることで心身のバランスが乱れる月でもあります。職場での三大ストレスは「仕事の質・仕事の量、人間関係」です。

 ■上司の“否定的対話”が部下のやる気をなくす
どの職場でも、第一に優先するのは仕事の能率を上げることです。職場環境の整備やOA化などもそのための手段ですし、社員旅行や飲み会もチームの結束を固めることに一役買っていることでしょう。しかし、基本は上司と部下、同僚間の人間関係がスムーズにいっているかどうかに尽きるのではないでしょうか。
ここでは、具体的なサンプルをあげて、職場の良好な人間関係にとって大切な要素を探ってみたいと思います。

まず、上司と部下とのこんな会話を聞いてください。場面は部下が上司に販売計画書を提出するところです。
「課長、おはようございます」
「おはよう」
「販売計画書が出来上がりましたので、ご検討ください」
「なに、君はこの程度の仕事にいつまでかかってるんだね。なんだね、この書類は」

あなたは部下の立場です。さて、どんな感想を持たれますか?
販売計画書を提出したときの気持ちは、おそらくこんなものでしょう。前夜、一生懸命に仕上げたことで、仕事をやり終えた充実感もあるでしょうし、計画書がどのように評価されるかということへの期待と不安もあるはずです。ある種の意気込みをもって課長の前に進み出たことは、想像に難(かた)くないところです。

ところが、その意気込みは課長の一言によって、完膚(かんぷ)なきまでに粉砕(ふんさい)されてしまいました。計画書はもちろん、自分の仕事の能力まで否定されたような気分に陥ったとしても不思議ではありません。

コミュニケーション心理学では、このような会話を「否定的対話」と呼びます。文字通り、課長の言葉の裏には支配的・高圧的な態度があり、しかも、課長自身はそれに気づいていないわけです。計画書の評価の前に、まずなすべきこと。すなわち、部下のやった仕事に対するねぎらいがまったく欠けている対話だといわねばなりません。

 ■上司の“肯定的対話”が部下をやる気にさせる
同じ場面での次の会話はどうでしょうか。

「課長、おはようございます」
「おはよう」
「販売計画書ができあがりましたので、ご検討ください」
「ああ、ご苦労さん、よく頑張ってくれたね。さっそく検討してみよう」

いかがですか?仕事に対するねぎらいの言葉をもらった部下は、一生懸命仕事をして良かったという感情をもつはずです。前者に対して、こちらは「肯定的対話」と呼び、部下を育成しようとしています。

両者を比較すれば明らかです。否定的対話は部下を消沈させて仕事に対する意欲を失わせ、肯定的対話は部下のやる気を引き出します。上司の部下に対する姿勢として、どちらが好ましいかは一目瞭然ですね。
もちろん、販売計画書に対する評価は冷静に下さなければなりません。練り直す必要があれば、当然そう指摘すべきです。しかし、その場合もねぎらいの言葉が最初にあれば、厳しい指摘も素直に受け入れられるのです。

もう少し、否定的対話と肯定的対話の比較をしてみましょう。前者の場合の課長の言葉は、彼自身に心の余裕がないとかろから発せられています。ゆとりのなさがいきなり叱ることにつながっているわけです。これに対して、後者は落ち着いた冷静な心の状態が、部下の労をねぎらうという気配りに通じているといえます。

実は、この課長さんは、私のところにこんな相談でみえたのです。 「もっと営業成績をあげる必要があるのです。でも、職場の雰囲気が暗いし、活気がない。最近の若いものの接客態度がなっていないんです。なんとかならないでしょうか」

しかし、問題は課長自身にあったということになりそうです。営業成績が上がらないことにイライラし、それを部下にぶつけている態度が見え隠れするからです。部下の接客態度を責める前に、まず自分自身の部下に対する態度を考えてみるべきでした。
部下に思いやりのある態度で接する。みずから範をたれてこそ、部下の接客態度も良好なものへと変わるのではないでしょうか。

私はこの課長さんに、そのことをアドバイスしました。お話を進めるうちに課長さん自身が部長からの叱責でイライラしていたことに気づかれたようです。そして、部下に対する接し方を改めることを決意されました。
さて、部下に要求する前に、自分自身を変えることにした課長さん。どんな結果がもたらされたでしょうか。彼自身に語っていただきました。

「雰囲気が格段に明るくなったんです。活気も出てきました。褒めてから具体的に指摘することの大切さがよくわかりました。成績アップに期待がもてそうですよ」



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